最新のITトレンド用語をレジュメに織り込み、未来の雇用主の気を引こうとしていませんか? 考え直しましょう。

IT業界では次々と新しいトレンド用語が生まれます。納得のいく言葉もありますが、忘れたほうが良い無意味な業界スラングもあります。そのようなトレンド用語でレジュメや面接に使おうと思っている方は、もう一度考えてください。気取った、誠実味のない人と思われ、かえって第一印象に傷を付けるかもしれません。

1. デジタルノマド、デジタル遊牧民”

デジタルノマドとは、テレコム技術を使って仕事をする人のことです。リモート勤務が多く、あちこち場所を変えて仕事をし、経験学習や移動の自由を重視します。雑誌で読むには面白い言葉ですが、自分自身を表現する言葉としては諸刃の剣となることがあります。独立心と自主性にあふれているという意味を持つ一方で、転職を繰り返し、他社に逃げやすいというイメージを与えるため、企業に忠実な社員を探している採用担当者には好まれません。

2. エコシステムエンジニア

IT業界におけるエコシステムエンジニアとは、IT関連のエコシステム(生態系)をゼロから設計・構築する人のことです。エコシステムの個別のコンポーネントを担当するジュニアレベルの開発者が、レジュメで「エコシステムエンジニア」と自称するには、ノウハウとマクロレベルのスキルが足りません。つまり、誇大広告に該当するため 面接で能力を聞かれて、非常にバツの悪い思いをする可能性があります。

3. ゲームチェンジャー、ビジョナリー

ゲームチェンジャーとは、型破りのアイデアを持ち、単なる業界の一員ではなく、業界全体を動かす人です。このITトレンド用語の問題は、月並みな成功を収めた人や物でも「ゲームチェンジャー」と呼ばれていることです。かつてこの言葉が持っていた栄光はもうありません。同義語の「ビジョナリー」もやはり乱用されています。故スティーブ・ジョブズはともかく、聞いたこともないような製品にまで、この言葉が使われています。

4. ディスラプト、ディスラプター

ディスラプト(破壊する)という言葉は、クレイトン・クリステンセン氏が使い始めた「disruptive innovation」(破壊的イノベーション)に由来します。もともとは、それまで高レベルの消費者だけが利用できた製品やサービスを、最低レベルの消費者にももたらす技術革新という意味でした。そうなれば製品が市場に普及し、最終的には競合他社を打ち負かします。しかし今では、新しい方法(たいていは今までより良い方法)で製品やサービスを消費者に提供する企業を「ディスラプティブ(破壊的」と呼びます。応募先の企業が、元の意味で理解するか、新しい意味を取るかは予想がつきませんから、安全策として使わないほうが良いでしょう。

5. イテレーション、イテレート、イテレーティング

イテレーションとは、プロセスを繰り返し、微調整を重ねることで、望む結果を達成することを意味します。会話を複雑で不明瞭にしたいのでない限り、「イテレート」より「繰り返す」、「イテレーション」より「バージョン」のほうがはるかに簡単です。

6. アジャイル、スクラム、スプリント

アジャイルとスクラムは、関連する言葉です。アジャイルとは、共同作業と相互作用を重視したソフトウェア開発手法です。スクラムとは、アジャイル開発の理念に基づく作業の枠組みです。そして、スプリントとは、スクラムのプロセスの一部です。これらはIT業界で盛んに使われていますが、しばしば意味が混同されています。このような開発手法について面接官と話したいなら、入念にリサーチして、詳細まで完全に把握したほうが良いかもしれません。

7. グロースハック

「ハック」は、まったく新しい意味を持つようになったITトレンド用語です。最近ではあらゆるソリューションがハックであり、グロースハックもその延長線上にあります。問題は、グロースハックやその理念が新しいものと考える点にあります。ハックという言葉と同様、これまで繰り返されてきた成長手法を指す新しいお洒落な言葉にすぎません。新しい技術を利用して成長戦略を改善していると言っても、大部分は過去の主要概念を発展させたものです。自分をグロースハッカーと呼ぶのであれば、すでに実践されている手法と比べて自分のメソッドがどれだけ革新的なのかを説明できる必要があります。

8. ブルーオーシャン戦略

W・チャン・キム氏とレネ・モボルニュ氏の同名の著書から生まれたブルーオーシャン戦略とは、「差別化と低コストを同時に追求して、新市場を開拓し、新しい需要を創出すること」と定義されます。真意ははるかに深いため、「ファイブフォース」、「レッドオーシャン」、「シャーク」などの概念を議論する用意がなければ、1度や2度聞いたことがあっても、そしてどんなに魅力的に聞こえても、口に出さないほうが良いでしょう。

9. ペインポイント

ペインポイントとは、端的に言えば問題点やニーズのことです。ならばなぜ「問題点」や「ニーズ」と言わないのでしょうか。

10. プロプライエタリ

プロプライエタリ技術とは、企業機密として扱われる特許取得済みのプロセスやシステムです。市場で企業の地位を保持し、製品やサービスに消費者を囲い込む目的で、自社で独占的に使用、または他社にライセンスを供与することもあります。独創的で特許に値するプロセスを開発したのでない限り、人事担当者の気を引くためだけに、自分の開発したものをプロプライエタリと呼んではなりません。

11. 最先端、革新的

「最先端」や「革新」の問題点は、今や何にでも、どんなに平凡なものにでも使われていることです。サービスを「Uber化」することは、独創的でもなければ革新的でもありません。本当に画期的な製品やサービスでければ、最先端で革新的と呼ぶことは、良くても誇張、悪ければ守れない約束です。自分の実績を謙遜する必要はありませんが、これらの言葉は、過去の成果を正確に描写するにはあまりにも曖昧で、不要な表現です。レジュメに多い大きな過ちは、不要な情報を散りばめてしまうことです。時には、少ないほうが良いこともあるのです。

これらのITトレンド用語は、長い説明を省き、短い言葉で強いインパクトを与えるには効果的ですが、しばしば乱用や誤用が蔓延しています。新しいITトレンド用語に出会ったら、やたらに使い始める前に、その起源を理解し、真の意味を理解することをお勧めします。